健診事後措置法令対応安全配慮義務健康経営2026.08

その健康診断、「実施して終わり」になっていませんか?

——企業が知っておきたい健診事後措置の基本と法的義務

健康診断は「受けさせて終わり」ではなく、結果を受けてからが本番。健診後に企業が行うべき「事後措置」の法的義務・放置した場合のリスク・具体的な進め方、そして産業保健師がどこでお役に立てるのかを、企業目線で分かりやすくお伝えします。

執筆:産業保健師 永松希望(産業保健師歴16年)

人事・労務ご担当者の皆さま、毎年の健康診断、お疲れさまです。

日程調整、受診勧奨、結果の回収……ようやく全社員の受診が完了してホッとひと息。ですが、こんなお悩みはありませんか?

こうしたお悩みは、実は多くの企業に共通しています。順番に整理していきましょう。

健診事後措置とは?——健康診断の「本当の目的」

健康診断の主な目的は、単なる病気の早期発見ではありません。従業員一人ひとりの健康状態を把握し、その人が安全に働ける配置・働き方を実現すること(適正配置)です。

そのために、健康診断の結果を受けて企業が行う一連の対応を「事後措置(健診事後措置)」と呼びます。これは努力目標ではなく、労働安全衛生法に定められた事業者の法的義務です。

労働安全衛生法第66条の5(健康診断実施後の措置) 事業者は医師または歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講ずるほか、適切な措置を講じなければならない

ポイントは、主語が「事業者」であること。健診結果への対応責任は、従業員本人ではなく会社側にあるのです。

事後措置を放置すると、企業はどうなる?

「うちは結果を本人に渡しているから大丈夫」——実はそれだけでは不十分です。事後措置が機能していない場合、企業には次のようなリスクがあります。

① 安全配慮義務違反を問われるリスク

企業には、従業員が安全・健康に働けるよう配慮する安全配慮義務(労働契約法第5条)があります。健診で異常所見があったにもかかわらず何の対応もせず、その後従業員が脳・心臓疾患などで倒れた場合、「会社は健診結果を知っていたのに措置を取らなかった」として、損害賠償責任を問われる可能性があります。

② 労働基準監督署からの指摘

医師の意見聴取(労働安全衛生法第66条の4)や事後措置の実施状況は、労基署の調査対象です。健診の実施だけでなく、その後の対応までが確認されます。

③ 気づかぬうちに進む「働き手の健康悪化」

高血圧や血糖異常は自覚症状がほとんどありません。放置された結果、ある日突然の休職・入院——。貴重な人材の長期離脱は、現場の負担増や生産性低下に直結します。事後措置は、従業員を守ると同時に、会社の事業継続を守る仕組みでもあるのです。

事後措置の流れ——企業は何をすればいい?

事後措置は、大きく次の5つのステップで進みます。

STEP 1📥健診結果の
回収・把握
STEP 2🩺医師(産業医)の
意見聴取
STEP 3⚖️就業判定・
就業上の措置
STEP 4🏥二次検査の
受診勧奨
STEP 5🔁保健指導・
経過フォロー

ここで大切なのは、「産業医面談」「保健師の保健指導」「二次検査の受診勧奨」がそれぞれ目的も法的根拠も異なる別の対応だということ。これらを混同したまま運用している企業は少なくありません。

多くの企業がつまずく「3つの壁」

壁① 「対象者が多すぎて回らない」

健診の判定をそのまま使うと、フォロー対象者が膨大になります。数百人分の再検査勧奨や面談を人事担当者だけで回すのは、現実的ではありません。

実は、効果的に事後措置を運用している企業は、自社の健康課題とリソースに合わせた「事後措置の基準」を設けています。優先度の高い健康ハイリスク者(重度の高血圧・血糖異常など)から確実に対応する仕組みをつくることで、限られた体制でも「抜け漏れなく、無理なく」回せるようになるのです。

壁② 「誰が・何を・どこまでやるのか決まっていない」

人事・産業医・現場の上司——関係者の役割分担が曖昧なままだと、対応が担当者個人の頑張りに依存し、担当者が変わった途端に止まってしまう「属人化」が起こります。

壁③ 「基準や根拠を説明できない」

「なぜこの人に就業制限をかけるのか」「なぜこの数値で線を引くのか」。根拠を説明できないと、従業員本人や現場の納得が得られず、措置が形骸化してしまいます。基準づくりには、健診データの分析や医学的な根拠、産業医との連携といった専門的なノウハウが必要です。

産業保健師は、事後措置の「どこ」で役に立つのか?

「産業医はいるけど、保健師って何をしてくれるの?」——よくいただくご質問です。

産業医の訪問時間は月数時間に限られることが多く、一人ひとりへのきめ細かなフォローや仕組みづくりまでは、なかなか手が回りません。産業保健師は、その産業医と人事の間をつなぎ、事後措置の実務を回す専門職です。各ステップで、具体的にこんな役割を担います。

01対象者の抽出と「基準づくり」

健診結果から「誰を・どの優先度でフォローすべきか」を、医学的根拠と自社データにもとづいて整理。会社の規模やリソースに合った事後措置の基準を設計できるのは、健診データを読み解ける専門職ならではの仕事です。

02二次検査の受診勧奨と「受診確認」

「受けてくださいね」の案内だけでは、人はなかなか動きません。本人の状況に合わせた声かけや面談で受診につなげ、受診したかどうか・結果はどうだったかの確認までを担います。ここが徹底できるかどうかで、事後措置の実効性は大きく変わります。

03産業医との連携の「橋渡し」

限られた産業医の時間を有効に使えるよう、面談対象者の情報整理や意見聴取の準備を実施。「産業医に何をどう相談すればいいか分からない」という人事担当者の負担を、大きく減らします。

04保健指導・経過フォロー

生活習慣の改善支援や、数値が悪化していないかの経過観察など、継続的な個別フォローを実施。従業員にとっては「気軽に健康相談できる専門職がいる」安心感にもつながります。

05データ分析と「仕組み化」

個別対応だけでなく、健診結果全体を分析して自社の健康課題を見える化。衛生委員会への報告や翌年度の改善提案まで行い、担当者が変わっても回り続ける体制をつくります。

つまり産業保健師は、事後措置の「入口(基準づくり)から出口(仕組み化・評価)まで」を一気通貫で支える存在なのです。

💡 企業担当者が知っておくべきポイント 事後措置の仕組み化は「義務対応」を超えた投資です。法令対応と安全配慮義務の履行を根拠をもって説明できるようになり、ハイリスクな従業員の突然の休職・重症化を防ぎ、毎年のデータ推移から自社の健康課題が見える化され、健康経営の取り組みにもつながります。

まとめ

従業員の健康を守る仕組みは、会社の未来を守る仕組みです。この記事が、貴社の健康管理体制を見直すきっかけになれば嬉しいです。

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