メンタルヘルス就業配慮人事労務向け2026.09

「最近、物忘れが目立つ社員がいる」と相談されたら、人事はどう動くか

執筆:産業保健師 永松希望|2026年9月14日

こんな相談、来ていませんか

現場のマネージャーから、こんな相談が入ることがあります。

「うちの部署の◯◯さん、最近物忘れが目立っていて。作業手順が抜けたり、他部署からも指摘が来ています。私からも病院に行ってみてはどうかと勧めているんですが、本人は嫌がっていて…」

さて、人事としてどうしますか。

まず、産業医面談につなぐ

こうした相談を受けたとき、最初の一手は産業医面談につなぐことです。

「産業医面談って、健診の結果が悪かった人が受けるものでは?」と思われるかもしれません。実際、現場ではまだ「気になる社員がいたら産業医に相談する」という流れが浸透していない会社が多いです。でも、こういうときこそ産業医の出番です。

人事や現場のマネージャーが「病院に行ったほうがいいよ」と言っても、本人は「余計なお世話」と受け取りがちです。医師である産業医が、面談の中で本人の状態を確認し、医学的な立場から「一度調べておいたほうがいい」と伝える。この一段階を挟むことで、本人が受け入れやすくなります。

面談には現場のマネージャーにも同席してもらうと、その後の対応が共有しやすくなります。

産業医の訪問が月1回で、面談の日程がだいぶ先になってしまう会社もあると思います。その場合は、産業医面談の前に保健師の面談を挟む方法があります。私も産業保健師として、本人への受診勧奨や体調確認などの面談をお受けしています(→ 産業保健師のサービス案内)。また、各都道府県の産業保健総合支援センターでも、事業者からの相談を無料で受け付けています。「産業医が来るまで何もできない」と止まってしまわないことが大事です。

産業医もしくは保健師面談の結果、本人も「このままではいけない」と受診の必要性を受け入れた。ここまで来れば、まずは順調です。

ところが、本人が受診しない

実は、「受診の必要性は受け入れたのに、受診しない」というケースは案外多いです。

1か月経っても受診していない。マネージャーが聞くと「病院を決めかねている」「あと1か月以内には行く」という返事。こういう状況、本当によくあります。

現場のマネージャーや人事労務担当者としては、「本人が行くと言っているのだから、もう少し待とう」と思う方が多いです。そう考えたくなる気持ちはよく分かります。ただ、私はここが分かれ道だと思っています。

これは「本人の健康問題」ではなく「就業上の問題」

このケースをどう位置づけるかで、動き方が変わります。

「◯◯さんに受診してもらう」という本人の健康問題として見ている間は、会社は「お願いする側」です。だから待つしかない。

でも、すでに業務に支障が出ていて、他部署からも指摘がある。製造業なら、事務職でも工場に出入りする場面や通勤があり、手順の抜け落ちがそのまま事故や労災につながる可能性があります。

そうなると、これは「会社として安全に働いてもらえるか」という就業上の問題です。会社には安全配慮義務があります。受診は「お願い」ではなく、安全に働いてもらうために会社が必要とする情報を得る手続き、と説明できるようになります。

この位置づけの転換を、会社として行うのが人事の役割です。

関係者会議を開く(本人抜き→本人同席の2段階)

こうしたケースでよく起きているのが、現場のマネージャー・産業保健スタッフ(産業医・保健師)・人事がそれぞれ別々に本人に関わっていて、「誰がいつまでに何をするか」が決まっていない状態です。

ここを決めるために、関係者会議を2段階で開きます。

1回目: 本人抜きで、会社としての方向性を決める

産業保健スタッフ(産業医または保健師)・人事労務・現場のマネージャーで集まって、次のことを決めます。

人事がこの場にいる意味は3つあります。会社としての判断を決めること。必要に応じて弁護士や社労士と連携して、会社を法的に守ること。休職などの制度説明や手続きを円滑に進めて、本人を支援すること。この3つは人事にしかできません。

2回目: 本人同席で、方向性を共有し、合意をとる

ポイントは「受診しなかったらどうするか」を先に決めること

ここを決めずに「本人のペースで」と待つと、1か月後にまた同じ状況で「どうしよう」となります。先に決めて、本人と合意しておく。これだけで、その後の対応がまったく変わります。

受診するときに「会社から主治医への情報提供」を持たせる

もう一つ、見落とされがちで、でもとても大事なことがあります。

本人が受診したあと、主治医から会社に意見をもらう。これは「診療情報提供書」という形で行います。復職時に使うイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、そもそも「主治医に意見をもらう」という選択肢自体を知らない会社も多いと思います。復職時だけでなく、今回のように「就業を続けてよいか、どんな配慮が必要か」を判断する場面でも使えます。

ただ、その前に、会社から主治医に職場の状況を伝える必要があります。

なぜか。物忘れがあるケースやメンタル不調のケースでは、本人が職場で起きていることを正確に説明できない可能性が高いからです。主治医は診察室で本人の話を聞くしかありません。そこに会社側から材料を渡さないと、「特に問題なさそうですね」で終わってしまうこともあります。適切な意見をもらうためには、会社側から情報を渡す必要があるのです。

書面に入れるのは、次の3点です。

その上で、「就業継続の可否と、必要な就業上の配慮についてご意見をいただきたい」と依頼事項を明記します。

進める際の注意点

書面のひな形と記載例

私が実際に使ってきた様式を、他社でも使える形に整えました。産業医・保健師の連名で主治医宛に出す「情報提供のご依頼」で、会社が記入する欄と主治医に記入いただく欄がセットになっています。

📄主治医への情報提供依頼書(汎用様式・Word)ダウンロード

経緯の記載例(架空のケース)

◯年◯月頃より、担当業務において作業手順の抜け落ちや、備品の返却忘れが複数回発生しております。所属長より口頭で注意・指導を行っておりますが、指導内容自体を記憶にとどめることが難しい様子が見られ、他部署からも同様の指摘を受けております。◯月◯日に社内で関係者会議を開催し検討した結果、就業継続の可否および必要な就業上の配慮について専門医のご意見をいただく必要があると判断し、本状をお送りするに至りました。

本人欄の記載例

項目記載例
勤務時間9:00〜17:45、交代勤務・夜勤なし
業務内容事務処理(勤怠入力・伝票処理)および倉庫への資材運搬(台車使用)
職場環境週2回程度、工場内を通行して倉庫へ移動。車両運転なし。カッター使用あり
業務上の支障1) 安全面: カッター使用時の手袋着用ルールを忘れる 2) 勤怠面: 出勤日を上司に電話で確認することが数回 3) パフォーマンス面: PCパスワードやメモの保管場所を忘れ、同僚の補助がないと入力ができない

ポイントは、「物忘れがひどい」という印象ではなく、いつ・どの場面で・何が起きたかを事実として書くことです。主治医が診察室で確認できないのは、まさにこの部分だからです。

受診後の流れ

ここまで整えておけば、受診後は「主治医の意見 → 産業医の就業判定 → 会社としての就業措置の検討」という流れにスムーズに乗ります。

この流れを、受診の前に人事と産業医で共有しておくこと。それだけで、結果が出てから慌てることがなくなります。

「待つ」か「動く」かは、会社が決めること

「早く受診してほしい。でも強要はできない」。この板挟みは、現場のマネージャーも、保健師も、人事も、それぞれ感じています。

ただ、その板挟みを誰か一人が抱える必要はありません。会社としてどう判断するかに引き上げること。関係者を集めて、誰がいつまでに何をするかを決めること。これが、人事が引き受ける役割だと思います。

「うちには保健師がいないので、会議のセッティングや書面の下書きを誰がやればいいのか分からない」という会社も多いと思います。私は産業保健師として、こうした関係者会議の設計や主治医への書面づくりを、人事の方と一緒に行うお手伝いをしています。

「今まさに似たようなケースがある」「対応が合っているか不安」という段階でも、お気軽にご相談ください。

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受診勧奨の面談、関係者会議の設計、主治医への書面づくりなど、貴社の状況に合わせてご一緒します。

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